Ryosuke TANNO
AIによるコーディング支援が標準となり、データ分析の世界では誰もが瞬時にグラフを描けるようになりました。しかしその一方で、かつて「データ分析職人」たちが、matplotlibやseabornの無数のオプションを駆使し、伝えたいメッセージや洞察を込めて丹念に作り上げた「真心を込めたグラフ」の価値が見失われてはいないでしょうか。
AIが生み出す便利でソツのないグラフが増えるほど、次のような感覚を覚えることはありませんか? 「このグラフ、どこかで見たことがあるな…」 「AIが書いたっぽいな、と一目でわかる…」 「昔ながらの手作り感というか…あの職人芸がない…」
大規模言語モデル(LLM)はデータ可視化のコード生成を驚異的に自動化しますが、その一方で私たちが本来発揮すべきクリエイティブ性を「均質化」させるという課題も生じているのでは無いでしょうか。
本発表では、生成AI時代におけるデータの可視化に焦点を当てて、AIの出力を超えるための具体的なテクニックを体系的に解説します。MatplotlibやSeabornといった非常に馴染みが深いライブラリの表現力を最大限に引き出すための「味付け」の方法から、MatPlotAgentに代表される最新AIエージェントとの対話的なグラフ構築、ライブラリの比較に至るまで、明日からご自身の業務で活用できる実践的な知識とワークフローを提供します。
生成AIの社会実装が進む現在、Web上のコンテンツが人間によるものかAIによるものか、その判別は困難となりつつある。背景には、AI検索への最適化、いわゆるLLMOなどを目的として、多くのコンテンツが生成AIによって加工・生成されている現状がある。
日々、生成AIの品質は向上しているが、それでもなお、直感的に生成AIによるものと推察されるコンテンツは依然として存在する。しかし、その推察を他者に対して指摘することは、AIの出力が人間に近づくほどに困難さを増していく。これは、いわば「生成AIハラスメント」とも呼ぶべき新たな社会的ジレンマを生む可能性を秘めている。
このような背景から、生成AIの出力に対し、作り手である人間が意識的に、いわば「個性となる味付け」を施すことの重要性が高まっていると私は考える。それは、AIがもたらす均質性から脱却し、アウトプットに対する作り手自身の責任と創造性を示すための有効な手段となり得るのではないか。
この問題意識は、生成AIの業務利用が拡大する中で、より重要になっていくと予想する。また、AIが人間の思考を均質化させる可能性を論じた記事(参考:A.I. Is Homogenizing Our Thoughts | The New Yorker)では、以下の内容が記載されていた。
生成AIという有益なツールも、こうした問題点を理解せず、人間による判断を介さずに全面的に信頼するにはリスクが伴う。このままAIの利用が前提となった世界において、我々人間のクリエイティビティ、換言すれば「個性」の価値はどこに求められるべきか。 筆者自身の業務体験から生まれたこの危機感と、AI時代における人間の役割への問いが、今回のテーマを選んだ理由である。本発表では、この課題に対する一つの実践的な解として、生成AIの出力を、人間の個性を反映したより価値の高いアウトプットへと昇華させるための具体的な技術について論じる。
プロフィール
NTTドコモビジネス株式会社(旧:NTTコミュニケーションズ)の新規事業創出を担うイノベーションセンター所属のリサーチエンジニア。データ分析Webアプリケーション開発、データ分析コンサルティング、AI教育プログラムの関連業務に従事。また、九州大学大学院システム情報科学府にて、人の学習プロセスを知識グラフとして表現し、その構造変化を時系列で分析する研究にも携わっています。
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